
大阪市港区での仕事を終え、西区の事務所へ戻るとき。
天気が良ければ、レンタル自転車を利用します。安治川沿いの道は信号が少なく、街中を走るよりも快適です。
その途中、以前から気になっていた場所がありました。
一見すると普通のビルなのですが、エレベーターから自転車に乗った人が次々と出てきます。

実はこの建物、安治川の下を通る河底トンネルの入口です。
その名は「安治川隧道(あじがわずいどう)」。
戦時中の1944年に開通した、日本初の沈埋トンネルです。
向こう岸の西九条に用事はありませんでしたが、長年気になっていた「川底の道」。少し時間があったので、自転車を押して渡ってみました。
ビルのエレベーターから自転車が出てくる
安治川の両岸には、それぞれエレベーター棟があります。
地上から見るだけでは、川底にトンネルが通っているとは分かりません。
すぐ横を通っているのは阪神なんば線の高架橋です。

入口では、人と自転車が頻繁に出入りしています。
観光客向けの施設というより、地域の人が日常的に利用している生活道路という雰囲気です。
自転車と一緒にエレベーターで地下へ

歩行者と自転車は、同じエレベーターを利用します。
自転車を何台も載せられる大きさですが、利用者が重なると一度では乗り切れません。
この日も、エレベーターの前には自転車を押した人が何人か待っていました。
エレベーターを降りると、目の前にまっすぐな地下通路が現れます。

トンネルの長さは80.6メートル。
数字だけを見ると短く感じますが、地下で反対側を見るとかなり遠く感じます。

写真の奥には、反対側のエレベーターを待つ自転車が小さく写っています。
川の下を歩いている実感はあまりありません。
ただ、外の音が聞こえず、細長い通路だけが続く独特の空間です。
防犯上の理由でしょうか、係員の方がおられて挨拶してくれました。
別日に階段を使ってみた
エレベーターの横には階段もあります。
歩行者は階段を24時間利用できますが、自転車を持って上り下りする構造にはなっていません。
エレベーター待ちを避けたい歩行者は、階段を利用していました。

せっかくなので、日を改めて階段を使ってみました。
体感では建物の3階分ほど。
息が上がる少し手前くらいの、地味にしんどい階段です。
安治川隧道は1944年に開通した
安治川隧道の工事が始まったのは、1935年。
戦時中の1944年に完成しました。
当時の安治川は船の往来が多く、大きな橋を架けることが難しい場所でした。
一方で、川の両岸を行き来する人や自動車は増えていました。
そこで、橋ではなく川底を通るトンネルが造られました。
安治川隧道では、あらかじめ造ったトンネル本体を川底へ沈めてつなぐ「沈埋工法」が、日本で初めて採用されています。
2006年には、戦前に造られた貴重な道路用河底トンネルとして、土木学会選奨土木遺産に認定されました。
昔は自動車もエレベーターで運ばれていた
現在は歩行者と自転車専用ですが、完成当時は自動車も通行していました。
両岸には自動車用の大型エレベーターがあり、自動車をエレベーターに載せて川底まで降ろしていたそうです。
国道43号の安治川大橋が開通するなど、周辺の道路が整備されたことで利用する自動車は減少。
1977年に、自動車の通行は終了しました。
地上には、現在使われていない自動車用エレベーターの設備や表示が残されています。
2025年には「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」で、普段は入れない車道部分を見学するツアーも開催されました。
1944年、日本初「沈埋工法」で開通した「安治川河底とんねる」。安治川の河底を横断し、此花区と西区を結ぶ全長約80mの歩行者・自転車専用トンネルが、イケフェス大阪に初登場!普段入ることができない車道部等を特別に公開します!#イケフェス大阪2025#初参加の都市施設を紹介#安治川河底とんねる pic.twitter.com/iAA1Yr7mIq
— 生きた建築ミュージアム (@ikitakenchiku) September 5, 2025
観光施設ではなく、今も使われる生活道路

トンネル内には、西九条駅や九条駅方面までの距離表示があります。
この案内を見て、安治川隧道が観光用に保存されている施設ではなく、現在も駅や住宅地を結ぶ生活道路であることが分かりました。

開通から80年以上。
自動車が通らなくなった今も、通勤や通学、買い物などで多くの人と自転車が行き交っています。
戦時中に造られた土木施設が、特別扱いされることなく、普通の生活の一部として使われ続けている。
安治川隧道の一番面白いところは、そこなのかもしれません。
安治川隧道の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 安治川隧道・安治川トンネル |
| 所在地 | 大阪市此花区西九条~大阪市西区安治川 |
| 開通 | 1944年 |
| 全長 | 80.6m |
| 深さ | 地下約17m |
| 通行料 | 無料 |
| 通行できる人 | 歩行者・自転車 |
| 自転車 | トンネル内では押して通行 |
| エレベーター | 6:00~24:00 |
| 階段 | 歩行者は24時間利用可能 |
| 最寄り駅 | JR・阪神「西九条駅」 |
| 認定 | 2006年 土木学会選奨土木遺産 |
※利用時間や設備の状況は変更される可能性があります。訪問前に大阪市の案内をご確認ください。
大阪市:安治川河底とんねる (…>橋>橋のダウンロード・コーナー(パンフレットなど))
まとめ
以前から気になっていた、エレベーターから自転車が次々と出てくる不思議な建物。
その地下には、安治川の川底を通る80メートルのトンネルがありました。
歴史的な土木遺産でありながら、現在も普通の生活道路として使われています。
西九条や九条周辺を歩く機会があれば、少し遠回りして川底を通ってみるのも面白いと思います。
※「隧道(ずいどう)」は、山や地下、海底などを通るトンネルを意味する、古い呼び方です。
過去記事リンク
ちなみに、ここから自転車で5分ほど上流のところに、土佐堀川と堂島川の合流地点、すなわち小説「泥の河」の舞台となった昭和橋があります。
自転車でお散歩記事